2022年12月24日(土)午後7時 「たったひとつの生涯」

「たったひとつの生涯」  ウイリアム・バークレー

世に知られぬ小さな村に  ユダヤ人を両親として生まれた  一人の男がいた

母親は農夫であった

彼は別の  これまた世に知られぬ小さな村で  育っていった

彼は三十になるまで大工に小屋で働いていた

それから旅回りの説教師となって  三年を過ごした

一冊の本も書かず  決まった仕事場もなく  自分の家もなかった

家族を持ったことはなく  大学に行ったこともなかった

大きな町に足をふみ入れたことがなく  自分の生まれた村から  二百マイル以上そとに出たことはなかった

偉大な人物にふつうはつきものの  目をみはらせるようなことは  なに一つなかった

人に見せる紹介状なぞなかったから  自分をみてもらうことが  ただ一つのたよりであった

はだか一貫、持って生まれた力以外に  この世とのかかわりをもつものは  なにもなかった

ほどなく世間は彼に敵対し始めた

友人たちはみな逃げ去った

その一人は彼を裏切った

彼は敵の手に渡され  まねごとの裁判に引きずり出された

彼は十字架に釘づけされ  二人の盗人の間に立たされた

彼が死の寸前にあるとき  処刑者たちは  彼が地上でもっていた唯一の財産  すなわち彼の上着を籤(くじ)で引いていた

彼が死ぬと  その死体はおろされて  借り物の墓に横たえられた

ある友人のせめてものはなむけであった

長い十九の世紀が過ぎ去っていった

今日、彼は人類の中心にあり  前進する隊列の先頭に立っている

かつて進軍したすべての陸軍  かつて建設されたすべての海軍

これらをことごとく合わせて一つにしても

人類の生活に与えた影響力において  あの孤独な生涯に  とうてい及びもつかなかった

といってもけっして誤りではないだろう

たった一つの生涯・・・・・・

点火

 

               

                                                バリトン独唱

 

                    栄冠シャロンベルクワイアによるきよしこの夜